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 「ソーホーにおけるユニクロの苦戦の仮説」

 

 

 「流通とSC・私の視点(772)」で、「ユニクロ、H&M、オールドネイビーのソーホー・オリンピック大会」と題した文章を記しました(2007年6月16日)。

 バリュー志向のカジュアルファションのジャンルの中で、「アメリカの中で勝ち抜いてきたオールドネイビー」と「ヨーロッパの中で勝ち抜いてきたH&M」と「日本及びアジアの中で勝ち抜いてきたユニクロ」が、ソーホーという世界を代表する立地で激しく闘っていることは、まるでソーホー・オリンピック大会のようです。今、ユニクロがソーホーで苦戦しているそうです。苦戦の度合いは明確ではありませんが、私なりに現時点でのユニクロ苦戦の原因を"仮説"として説明させていただきます(六車流:流通理論)。

(1)ユニクロ・ソーホー店の特性
 ユニクロ・ソーホー店は2,000〜3,000uの旗艦店(フラッグシップショップ)で2層の店(エスカレーターはありません)です。店全体は明るく、単純明快なコーナー単位で編成し、マネキンを多用し、カラフルな品揃え、コーディネート型の売場展開で、店づくり・ビジュアルMDing(VMP)においてH&Mやオールドネイビーより店舗イメージ的に優っています。
 しかし、価格的には次のようになっています。

@オールドネイビーやH&Mは5〜15ドルを下位価格(裾値)とし、20〜30ドルが中位価格、35ドルが上位価格のプライス戦略をとっています。

Aユニクロは15〜20ドルを下位価格(裾値)とし、30〜49ドルを中位価格(上位価格も49ドル)のプライス戦略をとっています。

 このように、ユニクロはプライス戦略的に「ワンランク上」(オールドネイビーやH&Mに対して20〜30%高いプライス戦略)を取っています。ユニクロは、価格の高さは「品質の良さ」(生地+縫製の良さ)、「VMDによる売場提案」、「ユニクロ独特の生活シーンの生活提案」、「接客技術の高さ」によって価格にワンレベルの高さを補う戦略を導入しています。ユニクロやオールドネイビーやH&Mのファッション業態を「バリュー志向のカジュアルファッション」のジャンルと呼びますが、ユニクロは他の2企業と比較して「ワンランク上のバリュー志向のカジュアルファッション」のポジショニングを目指した店づくりを行っています。

(2)アメリカ市場におけるバリュー志向のカジュアルファッションの基軸
 経済学において、消費者が意思決定を行う場合の理論として「アンカリング効果」があります。アンカリング効果とは、1つの意思決定をする時に、初めに印象に残った数字や物が基準値(=アンカー)となって、その後の判断全体にまで影響を及ぼす心理の傾向を指します。バリュー志向のカジュアルファッションのジャンルでは、「アメリカではオールドネイビー」(ギャップ社の売上のうちオールドネイビーの売上は7,883億円)、「ヨーロッパではH&M」(売上高1.4兆円)、「日本ではユニクロ」(売上高5,252億円)がアンカリング効果の基になる消費者の意思決定の基準企業となります。

 ニューヨークのソーホーはアメリカですので、バリュー志向のカジュアルファッションの分野では「オールドネイビーが消費者の意思決定の基準企業となります。オールドネイビーは「アメリカンカジュアル」というライフスタイルを低価格で提供する分野をエアポケットとして見抜いて独自のポジショニングを確立し、1990年代の初めから2005年頃(15年間、コンセプト8年×2回)までは敵の参入障壁の高い業態でした。しかし、最近はマーケットがマス化し、オールドネイビーも競争他社と同質化して敵の参入障壁の低い業態となり、苦戦しています。

 しかし、アメリカ人にとって、バリュー志向のカジュアルファッション分野におけるアンカリング効果による消費者の意思決定の基軸となる業態は「オールドネイビー」です。オールドネイビーの独自のスタイル、MDing、価格、店づくりがアメリカ消費者の基軸です。特に、バリュー志向のカジュアルファッションは「価格の安さ」がポイントです。

(3)企業あるいは業態が大躍進する要因
 1つの企業あるいは業態が大躍進するには、誰にも見抜けないニッチなマーケットをコンセプト&マーケティング戦略でマスマーケット化し、かつ、敵の参入障壁の高い分野を確立することが必要です(六車流:流通理論)。オールドネイビーは従来のアメリカンカジュアルというファッション分野を、当時としてはおしゃれさを保ちながら超低価格(バリュー志向)でポジショニングを確立し、その後15年間、敵の参入障壁の高い分野を築いてギャップ社というブランド力を基に参入者を突きはなしてきました。それゆえに、今は苦戦しつつ業態の転換を行っていますが、8,000億円近い売上高をギャップ社の中でオールドネイビーは確立しています。

 H&Mは、エレガント&ファッションという従来のヨーロッパスタイルを、おしゃれさを保ちながら超低価格(バリュー志向)でポジショニングを確立し、今や1.4兆円の企業に発展しています。この価格でファッション性のある店舗はヨーロッパでは存在せず、敵の参入を許さない分野を確立しました。

 ユニクロは、デイリーファッションのしまむら、カジュアルファッションのユニクロと呼ばれ、日本のデイリー&カジュアルファッション分野で独自のスタイル及び超低価格路線を確立しました。ユニクロはしまむらや無印良品と並んで、1990年代初めに起こった「買物の学習経験の終焉」以降の消費社会に革命を起こした3大企業です。すなわち、1980年代までの「タンスの中は一杯、もう今まで通りの延長線上の商品・サービスでは買うものがない!!」(この現象を買物の学習経験の終焉と言います)から脱皮し、新たな発想と創意工夫から創出された過去の延長線上ではない商品・サービスを提供しました。

 ユニクロは圧倒的な安さ、品質の良さ、カラーによるバリエーションを武器に、日本で敵の参入障壁を許さない企業として10年間で100倍の売上の企業に成長しました。また、低価格分野及びカジュアル分野でありながら、「ユニクロ」というブランドを確立しました。

 このようなオールドネイビー、H&M、ユニクロの3企業の特徴や出身地は異なるにしろ、共通点は「圧倒的な安さ」が基軸であり、その上で、それぞれの企業がMDing的に固有の特性を持っています。

(4)ユニクロとH&Mのアメリカにおける店づくりの比較

 ソーホーのユニクロは、隣接するオールドネイビーやH&Mと比較して20〜30%高いプライス戦略を取っています。ユニクロは他の2店と比較して価格の裾もワンランク高く、かつ、価格の上位値もワンランク高い、文字通り「ワンランク上のプライス戦略」を取っています。これはユニクロが、ワンランク下の「gu(ジーユー)」とワンランク上を目指す「ユニクロ」の企業内の業態戦略の一環でもあります。

 問題は、オールドネイビーの価格帯が基軸となっているアメリカのバリュー志向のカジュアルファッション分野で、ワンランク上のプライス戦略が通用するかということです。

 H&Mは、アメリカのバリュー志向のカジュアルファッションの基軸業態であるオールドネイビーとほぼ同じ価格帯を設定しています。オールドネイビーと価格面で同質化した上で、ヨーロッパ志向のエレガント性を付加してオールドネイビーとの異質性(オールドネイビーはアメリカンカジュアル、H&Mはヨーロピアンカジュアル)を確立していますので、H&Mはアメリカに出店した当初は苦戦しましたが、今や、H&Mのファッションスタイルも認知され、順調にアメリカの流通社会に根付いています。ユニクロはH&Mと異なり、価格面でオールドネイビーとは同質化せず、ワンランク上の店づくりをしていることに特徴があります。ベーシック衣料の定番商品中心のユニクロに対して、H&Mは流行に敏感な商品が売り物です。

(5)日本の消費者とアメリカの消費者の価格と品質のバランスに対する評価

 日本の消費者は「世界一賢い消費者」と言われています。日本でカルフールが撤退したのも、ウォルマート(西友)が苦戦しているのも、ダイエーが過去において大失敗したのも、この世界一賢い消費者の概念を理解しなかったからです。特に、日本の消費者には「何かを犠牲にする商法」は通用しません。例えば、品質を犠牲にした安さ、品揃えを犠牲にした安さ、サービスを犠牲にした安さ、店舗イメージを犠牲にした安さはなかなか受け入れてくれません。「安さ」は世界共通の消費者満足度ですが、日本人の生活慣習の中で安さよりも品質を重視する傾向が、世界のどの国よりも強くなっています。それゆえに、「安さ2番の原則」(○○○という優位性を持っているのに安い)という店が繁盛します(六車流:流通理論)。

 ところが、アメリカでは所得の二極化、低所得者の過剰なる存在、アメリカ人の独特な生活慣習、移民国家…等の要因により、日本の消費者より価格志向が高く、かつ、品質に対するこだわりも、アメリカの消費者は日本の消費者よりも少ないのが現実です。生地や縫製に対する品質評価も、アメリカの消費者は決して厳しくありません。それゆえに、アメリカの消費者の価格評価は「絶対的安さ」(品質に関係なく安いこと)が基準となり、日本の消費者の価格評価は「相対的安さ」(品質と価格のバランス上の安さ。ただし、品質が良くないと安さは通用しない)が基準となります。ユニクロはこの世界一賢い消費者の中で、安さと品質を一体化したユニクロスタイルのテイストで登場して、日本のバリュー志向のカジュアルファッション分野を席巻したのです。だから、バリュー志向のカジュアルファッションの中で、「安さのオールドネイビー」、「ファッション性のH&M」、「品質のユニクロ」と呼ばれています。これは、ユニクロが世界一賢い消費者のマーケットの中で育ち成功した由縁でもあります。

(6)ユニクロのアメリカでのポジショニング

 日本のマーケットの中で、ユニクロは低価格を基軸とした品質の保持及びユニクロスタイル(デザイン性+色数=高品質で値頃感を打ち出すスタイル)で圧倒的強みを発揮し、現状においてもバリュー志向のカジュアルファッション分野で敵の追随を許していません。現在、ユニクロは「gu(ジーユー)」ブランド(より低価格志向でヤングをターゲットとしつつ、品質を若干低下させるがトレンド性は逆に強化したブランド)のワンランク下のポジショニングの方向性と、本来のユニクロブランド(従来の価格帯を維持しつつワンランク上の価格帯を付加し、より品質を重視する)の方向性の2つの企業内ブランドを構築しつつあります。ソーホーのユニクロも、従来のパターンのワンランク上のユニクロです。

 問題は、アメリカのオールドネイビー型のバリュー志向のカジュアルファッションの価格帯より20〜30%高いプライス戦略が受け入れられるかどうかです。

 アメリカ、ヨーロッパ、日本の3つの地域の中で一番価格に敏感な国がアメリカであり、それゆえにオールドネイビーが過去15年間飛躍的に受け入れられ、ヨーロッパ出身のH&Mは、ファッション性の高さを付加してもプライス戦略をオールドネイビー並みに設定し、アメリカ市場でも成長しています。

 ユニクロのワンランク上のMDing戦略、プライス戦略、店づくり戦略(店舗内装+VMD+販売技術)は、アメリカにおいては馴染みづらいポジショニングにあります。これはマーケティング戦略に課題があるというのではなく、アメリカの消費者の価格と品質に対するバランス評価の問題と、先に進出してマーケットの基軸を既に確立しているオールドネイビーとH&Mの存在のためです。日本市場ではバリュー志向のカジュアルファッション分野では無敵であったユニクロも、アメリカ市場で世界レベルでの強力なオールドネイビーとH&Mとの直接対決の中で大躍進するには、「バリュー志向のカジュアルファッション」分野でのユニクロの「独自のポジショニング=ブランド=誰もが認めるワンランク上の存在」を確立することが先決です。

(7)アメリカのバリュー志向のカジュアルファッションのポジショニング

 アメリカのバリュー志向のカジュアルファッション業界を「ファッション軸」と「プライス軸」でマトリックス化すると次の通りです。



 オールドネイビーをバリュー志向のカジュアルファッションの基軸業態とすると、価格軸として「オールドネイビー」、「H&M」、「フォーエバー21」、「ターゲット」が同一ラインとなり、「ユニクロ」はワンランク高くなります。

 一方、ファッション軸として、「オールドネイビー」より「H&M」はエレガント性が高く、「ユニクロ」は、アメリカンカジュアルのオールドネイビー(最近、モデルチェンジを行い、ややエレガント性を付加してキャリア対応を進め、おしゃれ感覚になりつつあります)や、カジュアルファッションですがファッション性のあるH&Mとは異質性を保ち、品質と多様な色遣いによるバリエーションをユニクロの異質性としています。それぞれ三者三様の特性を持ち、個性化したカジュアルファッションの道を歩んでいますが、ユニクロは価格的にはワンランク上のアバクロンビ&フィッチやギャップ、さらにザラとH&Mやオールドネイビーの中間の位置づけにあります。価格的にワンランク上のラインで、品質、色の多様性、店づくりのユニクロ戦略が、アメリカ市場の中で競争相手を圧倒し、アメリカの消費者の理解と認識、つまりユニクロのブランド化が、日本での伝説のように達成できるかどうかです。ユニクロは、アメリカではオールドネイビーやH&Mと比較して、全くの無名です。そこで、バリュー志向のカジュアルファッション分野でのワンランク上のポジショニングの確立が絶対に必要です。すなわち、「少し高いが品質が良い」との日本流のマーケティング戦略をバリュー志向のカジュアルファッションの分野で確立することです(ただし、H&Mと同レベルのファッション性を高めても効果は出ません)。

 結論として、ウォルマートのワンランク上(半ランク上?)のディスカウントストアである「ターゲット」の戦略構築が、ユニクロが成功するためのモデルとなります。ターゲットは、ウォルマート(=オールドネイビー)との異質性と優位性を見事に創出してワンランク上のターゲット(=ユニクロ)を開発しました。アメリカ人にユニクロの良さを明らかな優位性を持って認識させるためには、ウォルマートに対するターゲットの半ランク上の戦略が参考になります。そのためには、かなりの時間とノウハウが必要とされます。


 
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