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遊びと買物が一緒にできるがエンターテインメントの


「アーバイン・スペクトラム・センター」


 

1.アーバイン・スペクトラム・センターの概要と特徴

 
アメリカで最強の郊外型SCと言われ、カルフォルニア州オレンジ郡でSCの覇権を握っている「サウス コーストプラザ」の商圏下で、エンターテインメント要素を切り口にRSCを構築しているSCが、「アーバ イン・スペクトラム・センター」(以下アーバインセンター)である。敵の参入を許さなかったサウスコース トプラザのおひざもとで、サウスコーストプラザが希薄なエンターテインメントという分野から進入し、最 終的にはRSCを確立しようとする手法を用いているのがアーバインセンターであり、今回、事例として取 り上げた理由である。

 アーバインセンターの施設概要と特徴は次の通りである。
(1)エンターテインメントセンターとして出発したRSC

 アーバインセンターの2006 年末にはノードストローム、ロビンソン・メイ及びターゲットを核店とし、 150 店舗以上の物販・飲食・エンターテインメントのテナントで形成され、リース面積は11 万uの本格的 RSCとなる。しかし、アーバインセンターが1995 年にオープンした時は、シネマコンプレックスと飲食 施設と一部物販専門店のみであり、リース面積も23,250 uであった。アーバインセンターの立地するエリ ア内にはアメリカ最強のSCであるサウスコーストプラザが立地しており、本格的かつ業績の高いSCは 成立できないエリアであった。アーバインセンターが開発された時期は、アメリカの景気が急速によくな り、1980 年代のディスカウントストア中心の時代からエンターテインメント志向の時代に向かいつつあっ たため、当初はエンターテインメントセンターと言う業態でスタートした。エンターテインメントセンタ ーとは、物販機能が3分の1、飲食機能が3分の1、アミューズメント機能が3分の1のSCであり、当 時(1990 年代)脚光をあびた業態である。

 正に、アーバインセンターは、このエンターテインメントセンターとして出発した。

 アーバインセンターの核要素となったのがシネマコンプレックスのエドワードである。エドワードは21 スクリーン・5,800 席の施設規模を有し、年間200 万人を集客した。このエドワードのシネマコンプレッ クスを核機能として、シネマコンプレックスの集客と、その波及効果によって、レストラン街、ゲームセ ンター、さらには物販専門店の成立性を高めることができた。アメリカでの映画利用者は年間14 億人、日 本では1.7 億人であり、シネマコンプレックスのSC集客に対する考え方に大きな違いがある。アメリカ のシネマコンプレックスは100 万〜200 万人の集客を持つが、日本では30 万〜60 万人程度であり、シネマ コンプレックスの集客力に大きな格差がある。アーバインセンターのエドワードは200 万人の集客を有し、 実質的に核店舗1店舗分の集客力を持ち、周辺のテナントへの波及効果をもたらす役割を持っている。

 SCにおける核要素の考え方も時代と伴に変化している。アメリカでは1970 年代までの核要素はワンス トップショッピングとコンパリゾンショッピングを基軸とするGMS・PDS・百貨店の核店舗であった。 それゆえに、いかに多くの核店舗を多様性と選択肢を持って揃えることができるかが勝ちパターンのSC であった。しかし1980 年代になるとアメリカの景気が悪化するとディスカウントストアが流通の基軸とな りディスカウントストア、カテゴリーキラー、パワーセンター、アウトレットが進出した。そのために、 SCの核要素の1つに核店舗以外にディスカウント性やバリュー性が追加された。さらに1990 年代になる とアメリカの経済が好転しバブル化し、流通の基軸がエンターテインメントとなり、アミューズメントセ ンター、飲食・レストランセンターが進出した。この時代にアーバインセンターも開発されている。この 段階でさらに、SCの核要素の1つにエンターテインメントセンターが追加された。さらに2000 年代にな るとアメリカも浮かれた時代から自然環境志向、いやし志向、ノスタルジー志向によりコミュニティ&コ ミュニケーション(地域の交流の場)がSCの核要素に加えられた。そのために、SCの核要素は王道で ある核店舗以外に、バリュー性、エンターテインメント性、コミュニティ&コミュニケーション性が追加 されている。アーバインセンターは当初は核店舗なしのエンターテインメント性を核要素として成立した SCである。

(2)段階的豹変型開発手法のRSC

 アーバインセンターの第1期(1995 年)はシネマコンプレックスと飲食店街及び一部物販専門店からス タートし、大繁盛型のエンターテインメントセンターとなった。 第2期(1998 年)に、チーズケーキファクトリー(チーズケーキを差異化要因とするファミリーレスト ラン)やデイブ&バスター(大人の遊びとレストラン・バーが一体化した施設)や遊びの要素のある物販 専門店を導入した。1期・2期のリース面積は46,000 u以上となり、シネマコンプレックスのエドワード の集客に期待するだけでは成立困難となった。そのため物販専門店の苦戦及びSCの規模に見合う全体集 客力が相対的に低下し始めた。そこで第3期(2002 年)は、集客力を高めるため中の中グレードのロビン ソン・メイ百貨店を導入し、同時に、アーバン・アウトフィッターズ、フォエバー21、バーンズ&ノーブ ル書店を移転導入した。さらに、エンターテインメントセンター施設として大観覧車と回転木馬も取り入 れた。特に第3期は物販力の強化を主眼に置いた増床リニューアルであった。今は、第4期(2005 年〜2006 年)が進行中であり、2005 年9月にノードストローム(中の上グレードの百貨店)が、さらに2006 年夏 には総合DSのターゲットが導入される。この第4期の増床リニューアルにより、リース面積11 万uの3 核型RSCが完成することになる。アーバインセンターのような最初はエンターテインメントセンターか ら始まり、途中性格を変えながら最終的にはRSC(3核・11 万u・150 店)に変化させていく開発手法 を段階的豹変型開発手法と呼ぶ。

 アーバインセンターが、最初からRSCを開発せず、エンターテインメントセンターという業態から出 発したのには意図的か自然的であるのかは定かではないが、アメリカ最強のSCであるサウスコーストプ ラザのエリア内に立地していることに理由がある。サウスコーストプラザは、サックスフィフス・アベニ ュー、ノードストローム、メーシーズ、ロビンソン・メイ、シアーズ等の7つの核店と270 店のテナント、 1,200 億円の売上高、18.8 万uのリース面積を持ち、しかもピンキリのMDingで敵の参入を許さない 圧勝型SCづくりを行っている。それゆえに、多くの競争SCは苦戦しているか、業態転換しているか、 異なる業態を開発している。そのような競争状況の中で、アーバインセンターは最初からRSCを開発し ても成立困難と判断した。サウスコーストプラザは敵の参入を許さない圧勝型のSCであるが、2つの課 題を持っている。1つは、アメニティであり、もう1つはエンターテインメント性である。サウスコース トプラザのアメニティの希薄さを切り口にしてRSCを成立させたのはファッションアイランド(本連載 の第18 回参照)であり、エンターテインメントの希薄さを切り口にしてRSCを成立させようとしている のがアーバインセンターである。核店揃えの物販力ではサウスコーストプラザに完璧に負けるために、ま ず、アミューズメントと飲食店のエンターテインメント性を核要素として大集客力を高め、その大集客力 を波及効果として物販の成立性を高め、さらに物販力が高まることにより百貨店や総合DSの核店舗を導 入した。この手法は通常のSCの開発手法である核店舗の導入、ついで物販専門店の導入、さらに飲食及 びアミューズメントのエンターテインメント性の導入のプロセスとは全く逆の発想である。最強のSCが ある場合、最強のSCの希薄分野のニッチニーズの差異化要因を競争優位性を持って展開し、その分野に おいては敵の参入を許さない段階で大集客力を持ち、その大集客力で敵の同じ分野を成立させていく手法 である。アーバインセンターも最初からRSCを開発していれば、おそらく失敗していただろう。勝ちパ ターンの王道の開発手法の映像フィルムを逆に回した手法が、段階的豹変型開発手法である。SCが売れ ないのはマーケットがないから売れないのではなく、勝ちパターン化していないから売れないの由縁でも ある。アメニティを切り口に成功したファッションアイランドやカルフォルニア1の集客力を誇るサード ストリート&サンタモニカプレイスの成功もアーバインセンターの成功のノウハウと同じ手法である。

(3)ダウンタウン志向のRSC

 アーバインセンターが立地するアーバイン・スペクトラム地区はオレンジ郡で最大のビジネスパークで あり、2,500 の事業所と55,000 人従業員が働いている。その関係上、アーバインセンターは、ロサンゼル スの郊外エリアではあったが、ダウンタウン(中心市街地)としての位置づけの立地である。その関係か ら、第1期のシネマコンプレックスと飲食街、プラス物販専門店のエンターテインメントセンターは的を 射た開発であった。すなわち、周辺のビジネスパークのワーカーの昼食やアフター5に利用する場であっ たわけである。現在はシネマコンプレックスとチーズケーキファクトリーやPFチャン(おしゃれなワイ ンの似合う中華レストラン)やフードコートのオアシス等のレストラン街以外に、大人の遊びとレストラ ンやバーが一体化したデイブ&バスター、スポーツレストランのフォックス・スポーツ・グリル、スポー ツクラブのボーディーズ・イン・モーション…等のワーカーのアフター5志向の業態が多く導入されてい る。アメリカでは商業的にはダウンタウンが崩壊し、かつ、郊外のSCはファミリー志向・健全志向であ るためダウンタウンの繁華街機能が著しく少なくなっている。今、アメリカでは昔の商店街や中心市街地 が持っていた繁華街機能に対し、ノスタルジア(郷愁)現象が起こっている。アーバインセンターは、ノ スタルジア化したダウンタウン機能を付加したRSCと言うことができる。

(4)異色の3核体制のRSC

 アーバインセンターは、エンターテインメントを切り口に出発したSCであるが、今、着々と物販機能 を強化している。その際たるものが、ゼネラリティ業態の3核店の導入である。第1の核として中の中 グレードのロビンソン・メイ、中の上グレードのノードストロームの両百貨店と、本来ならば中の下の グレードであるシアーズあるいはJCペニーが考えられるが、下グレードの総合DSであるターゲット を導入した。ターゲットはウォルマートと同様に総合DSであるが、元々親会社が百貨店であったため に、おしゃれな総合DS、ファションに強い総合DSの位置づけを築き、かつ、JCペニーやシアーズ よりも価格破壊力をもっているために、最近ではRSCの核店に導入されつつある。アーバインセンタ ーは、このように、独自のMDingとサービスを持つ中の上のグレードのノードストロームと、現在 はロビンソン・メイであるが、将来はメーシーズに転換が予想される。メーシーズは中の中グレードと して750 店舗体制を確立しつつあり、中の中グレードでは最強の業態化しつつある。これに、おしゃれ な総合DSが加わることにより、異色の3核体制のRSCが確立されつつある。このノードストローム、 メーシーズ(現在はロビンソン・メイ)、ターゲットは、アベレージ志向のRSCの新御三家の位置づけ が期待されている。

2.アーバイン・スペクトラム・センターのエンターテインメント性の要素

 アーバインセンターのエンターテインメント性は次の通りである。

(1)ダウンタウン性とRSCの一体化がエンターテインメント

 アーバインセンターは、3核150 店舗のRSCであるが、郊外型RSCとの違いは、ダウンタウン志向 のアフター5や身近なレジャーのニーズに対応した業態が数多く導入されている。しっかりした3核店 のRSC機能を充実させた上に、エンターテインメント性が付加したSCに生まれ変わり、アーバイン センターはファミリー対応とパーソナル対応の両面ニーズに対応したSCとなったことが、エンターテ インメントである。

(2)多様なレストラン街がエンターテインメント

 アーバインセンターの飲食街は3つのタイプから成り立っている。

 1つは、カフェズ・アット・オアシスに代表されるフードコート&カフェのタイプである。ファミリー 対応及び周辺のワーカー対応として気軽で利便性のある飲食業態である。

 2つは、チーズケーキファクトリーやPFチャンのようなカジュアルレストランタイプである。グル メ・こだわり・おしゃれを切り口に、かつ、価格はリーズナブルなカジュアルレストランはファミリー にもパーソナルニーズにも対応できる飲食業態である。特に、SCのデベロッパーが是非導入したいレ ストランであるチーズケーキファクトリーとPFチャンの導入はSC来店者に高い満足を与えることに なる。

 3つは、デイブ&バスターやフォックス・スポーツ・グリルのような大人、特に男性志向の遊びとレス トランとバーが一体となった飲食業態でもある。ダウンタウン機能である不良ぽっい繁華街機能をも持 っている。

 このように、あらゆるニーズに対応した飲食店街の形成がエンターテインメントである。

 アーバインセンターは、エンターテインメントとして出発し、今や、3核150 店舗体制のRSCに進化し た。進化のプロセスは、最強のSCに対するニッチニーズを異質化戦略とし、異色化したニーズに競争優位 性を持たせて勝ちパターン化する手法である。アーバインセンターのRSC化が成功するか否かはまだ定か ではないが、今後期待したい。
 
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