本サイトを快適にご覧いただくためには、「文字サイズ 小」 にてご覧いただくことをご推奨いたします





食品業態であるのに時間消費がエンターテインメントの


「HEB社のセントラルマーケット」




 

1.HEB社のセントラルマーケットの概要と特徴

 アメリカのウォルマートは30兆円の売上を誇る世界最大の流通企業であり、流通業界はもとより総合ディスカウントストア業界や食品業界でも覇権を握っている。このウォルマートの基軸業態であるウォルマートスーパーセンターの進出に対してアルバートソンズやクローガーのような有名SM企業が大苦戦している中で、ウォルマートスーパーセンターが進出してもビクともしない、あるいは逆に人気の出るSM企業がありそれがHEB社である。そのHEB社のアップスケール型業態が、今回事例として選んだ食品業態でありながら時間消費というコモデティ・エンターテインメント志向の「セントラルマーケット」である。

 覇権企業及び覇権業態とは「流通業界で勝ち残る・生き残るためには特定の企業・業態を無視しては競争上成り立たない基軸となる企業・業態」のことを言う。正にウォルマートはアメリカの流通業界の覇権企業であり、その中核的業態であるウォルマートスーパーセンターは食品業界の覇権業態となっている。 ウォルマートスーパーセンターと棲み分けるウエグマン、ゲルソンズ、バヤリーズ、ブリストルファームスのような高級SMではなく、HEB社のセントラルマーケットは、従来のSMにオーガニックとグルメ食品を強化させたアップスケールタイプであり、対面志向・製造小売志向・産直志向・こだわり志向のSMである。このセントラルマーケットはウォルマートスーパーセンターのウエアハウス型のSM+ディスカウント志向とは異なり、市場型・デパ地下型の郊外版の新しい市場型のSMファーマットであり、ウォルマートのドミナントエリアの中でウォルマートが進出すればするほど人気が出る食品業態として、ウォルマートスーパーセンターと見事に棲み分けている。

 HEB社の特徴は次の通りである。
<セントラルマーケットの概要>
 ウォルマートスーパーセンターと見事棲み分け、ウォルマートスーパーセンターが進出すればするほど人気の出るHEB社のセントラルマーケットの特徴は次の通りである。

(1)スーパーマーケット型とバザール型の融合した食品業態

 食品業態は縦軸にグレード軸、横軸にスタイル軸とすると、次のようなマトリックスが出来上がる。

スーパーマーケット方式はセルフ販売のフード(食べ物)中心の業態に対して、バザール方式は対面販売のミール(食事)中心の業態である。

 

ウォルマートスーパーセンターはディスカウント志向のSMと総合ディスカウントが一体化したウエアハウス型の業態であるが、セントラルマーケットは標準的なSMにグルメ志向やオーガニック志向(健康・自然志向)を付加し、あたかも日本のデパ地下を郊外ヴァージョン化した業態のようである。それゆえに、セントラルマーケットはスーパーマーケット方式とバザール方式を融合させた市場型SMの食品業態である。

(2)アップスケール型の食品業態

 アップスケールとは新しい試みの戦略店舗を意味するが、次の4つの機能付加が必要となる。

 @規模(売場面積)付加によるアップスケール化

 日本でのSMの売場面積は一般的に2,500u〜3,000u、ウォルマートスーパーセンターの食品売場でも5,000uであるに対し、セントラルマーケットは7,300uの売場面積を有する超大型食品業態である。

 Aラインロビング付加によるアップスケール化

 売場面積の大きさは当然ながら、新しい商品や機能のラインロビング化が行われる。従来の標準型タイプにグルメ志向・オーガニック志向・製造小売業志向(HMR志向)のこだわり志向だけでなく各分野単位で奥行きの深い品揃え戦略を行い、選択肢の高い売場を形成している。

 B多アイテム付加によるアップルスケール化

 多アイテム化は品揃えの間口の広さの拡大と品揃えの奥行きの深さの両面から捉えることが出来る。セントラルマーケットは食文化をテーマに関連商品の付加(部門数の付加)と、品種レベル及び品目レベルでも選択肢の幅の広いアイテム戦略を取っている。いわゆる食に関して量的にはないものはない。質的にはこだわり志向を加え、アイテム数は4万SKU(推定)であり、通常のSMの2倍の品揃えを行っている。ちなみに、高級・グルメ志向の最強のSMと言われているウエグマンは6万SKUである。

 C生活提案の付加によるアップルスケール化

 生活提案とは、生活者に「こんな生活があったのか!」(ライフクリエーション)と「こんなことをして欲しかった!」(ライフソリューション)と感じさせる商品及び売場づくりである。グルメ商品やオーガニック商品のみならず、製造小売志向でセントラルマーケット独自のオリジナリティのある商品を豊富に揃え、新しい食生活の提案を随所で行い地域の食文化の向上に貢献している。

(3)ドミナントのトップ業態の食品業態

 HEB社は、テキサスのサンアントニオ市・オースチン市等のドミナントエリアではマーケットシェアは40〜80%であり、完全にマーケットを制圧している。一つの企業がドミナントを形成するためには「競争優位性」(競争相手に対し規模・価格・サービス・バイイングパワー…等で上回ること)と「異質性」(競争相手との差異化が出来ること)の両面が必要である。そのためには「地域制圧戦略化」(バイイングパワーとセリングパワーで競争相手を圧倒する戦略)と「地域固有のニーズのMDing戦略化」(地域が持つ独自のニーズをデモグラフィック的かつライフスタイル的に把握し、そのニーズに基づくMDingで競争相手を圧倒する戦略)をするためには業態の三角形型業態構築必要となる。HEB社はドミナント形成においてはベイシック業態(小商圏かつ小型食品業態)として「パントリー」、次いでメイン業態(中商圏かつ中型食品業態)として「本来のHEBマーケット」、三角形の最上位としてトップ業態(大商圏かつ大型食品業態)として「セントラルマーケット」の三重構造の業態を形成し見事なドミナントを確立している。セントラルマーケットはHEB社のドミナント戦略の中で、一番大きな商圏(半径約48q)を形成し、競争相手との競争優位性と異質性の両面機能を担当する食品業態である。

(4)3割差異化・特化、7割ゼネラルの食品業態

 流通業の勝ちパターンの一つに、3割差異化・特化、7割ゼネラルの原則がある。すなわち、繁盛店になるためには競争相手とは3割違いのあるMDingを行い、差異化した以上は特化(圧勝)する必要がある。一方、3割以外の7割は競争相手と同じMDingを行うことが客層の幅を保つために必要であるとの流通理論である。セントラルマーケットが単なるグルメ志向・オーガニック志向の客層の幅の狭いSMではなく、標準型のHEBマーケットのMDingを基本(7割ゼネラル型MDing)とし、3割はグルメ・オーガニック志向のMDingを付加して、あたりまえの食品をきっちり売りながら、競争相手あるいは自店のHEBマーケットとの差異化を行っている。

(5)価格が二番目の選択理由となる食品業態

 ドミナント戦略が成功するためには価格の安さが絶対条件である。HEB社はウォルマート対策として1万2,000アイテムの値下げを断行して安さを強調した。同時にセントラルマーケットは価格以外のグルメ商品やオーガニックやこだわり商品の付加、さらには品種・品目レベルでの多アイテム化による選択肢の強化により、安さよりも価格以外のものに生活者が魅力を持つマーケティング戦略を導入した。客から見ると、食文化の深化を理由にセントラルマーケットを選び、しかも価格はリーズナブル(安くはないが、高くはない。品質レベルから見ると安い)との評価を得る店の位置づけになっている。正に、価格が二番目の選択理由の店になっている。

2.セントラルマーケットのエンターテインメント要素

 一般的に食品は客から見ると時間節約型の業態である。近くの立地で出来るだけ時間をかけずに買えることが食品業態のマーケティング戦略である。ところが、セントラルマーケットは、食品業態であるのに、客は時間をかけて買うことに魅力を感じる店である。この食品業態であるのに時間消費を魅力と感じることが、セントラルマーケットのエンターテインメントである。セントラルマーケットのエンターテインメントの要素は次の通りである。

(1)ウォルマートに対するアンチテーゼの食品業態

 ウォルマートスーパーセンターは価格の安さと利便性で競争相手を圧倒し、アルバートソンズやクローガーを苦戦に落とし入れている。しかしウォルマートスーパーセンターによるドミナント化はウォルマートに対するアンチテーゼ(反発)が起こる。アンチテーゼとはウォルマートがいらないと言っているのではなく、ウォルマートばかりではいやだとの意見である。ウォルマートは品揃えが良く、価格も安く、かつ信頼できる企業であり、ウォルマートは必要ではあるが、ウォルマートとは異なった食品業態も欲しいとのニーズが、ウォルマートが強ければ強いほど起こることになる。ウォルマートとセントラルマーケットは見事に棲み分けしているために、セントラルマーケットにとってウォルマートが近くに立地すると相乗効果が出て集客力が高まり好都合な状態となっている。客から見ると、ウォルマートばかりでは困るけれど、ウォルマートスーパーセンターが立地した上にセントラルマーケットが存在すれば鬼に金棒の買物場所となり、客をうれしくするエンターテインメントである。ウォルマートが出店し、ドミナントを形成すればするほどセントラルマーケットの人気が出ることを、「覇権企業のドミナント強化による差異化業態人気化の原則」と言う。

(2)食文化の生活提案をする食品業態

 セントラルマーケットは食品を売るだけでなく、食文化の生活提案を同時に提供している。たとえば、一流ホテルのコンシエルジュのような存在であるフーディ(食通を自認する店員が売場を回り、お客の質問に答え、商品の説明をし、料理方法や食べ方教える食品専門アドバイザー)が食の新しいライフスタイルを提案している。また、社員教育も徹底しており自社の独身研修システムを用いて食通の社員を育成している。さらに、有名シェフを招いた料理教室の開催やTV料理番見へのスポンサーになり食文化を広めている。客にとって単なる食品を売るだけでなく、食生活の提案まで提供するシステムは、客をうれしくするエンターテインメントである。それゆえにフードラバー(食の愛好家)志向の客が多く、食べることが好きな人に普段とは違った新たな経験を提供したい。食べ物の視野を広げたい人を対象とし、それがまたセントラルマーケットの得意分野を強化している。

(3)時間消費型の食品業態

 セントラルマーケットは客にとって楽しい売場である。単に安いとか便利とかという魅力ではなく、売場全体が新鮮さと風味(味と香り)にあふれ、売場を歩くこと自体が楽しいのである。それは食の生活提案によるうれしさもあるが、品種(商品の使用目的の違いで分類する単位)や品目(同じ使用目的の中で異なる属性で分類する単位)レベルで著しく充実し、信じられないぐらい豊富なアイテムの品揃え、その結果、めずらしい食品の豊富さによる生活提案性と選択肢の高さは、思わす客をウキウキさせる楽しさとなる。例えば、青果は地場野菜からアジアの野菜、さらには世界の青果まで700種類・3色のサイン(紫=ウイークリースペシャル、黄=オーガニック、青=地場産)、精肉は契約牧場でオーガニック飼料により育てられた最高級の牛肉、ワインは世界のワインが2,500種類、世界のビール250種類、世界中から集められた700種類のチーズ等の多アイテム・高生活提案売場は客にとって楽しいエンターテインメントである。

 セントラルマーケットは、近未来の日本における地域密着ニーズの基軸業態であるスーパーセンターとの棲み分け手法の事例としては最適である。また、HEB社のドミナント戦略も、今後の流通飽和期における大競争社会での勝ち残り手法である。HEB社及びセントラルマーケットの成功のメカニズムは日本の流通企業の勝ち残りのノウハウとなるだろう。

 
Copyright (C)2007 Dynamic Marketing Co.,Ltd. All rights reserved.