本サイトを快適にご覧いただくためには、「文字サイズ 小」 にてご覧いただくことをご推奨いたします




「顧客が感じる心理的価格

“許せる安さと許せない安さ”

− 繊研新聞 2009年8月19日 掲載「ファッション業界への提言」 −



 

1.新価格体系に移行中

 現在、日本の流通業界は、1991〜1994年の第1次価格革命に続く、第2次価値革命(2008〜2011年)により、価格志向が高まり何でも安ければ良いと言う時代になりつつあります。価値は品質/価格であり、品質と価格のバランスの事を意味しますが、価値革命の時代の初期は、価格の低下による価値アップが主力になり、やがて中期・後期になると品質向上による価値アップが主力となります。結果的には、価値革命により顧客が認める価値は2倍に高まります。売り手としての企業は、価値意識が2倍高まった顧客に対応することが価値革命以降の生き残り及び勝ち残りの戦略です。

 しかし、単に価格を下げる安さだけでは顧客は見向きもしません。 そこで、「安さを美しく提供する"安さの美学"(おしゃれな安さ)の理論」が必要となります。すなわち、安さの美醜を見抜く審美性のノウハウを取り入れた考え方であり、安さを美しい安さへ導く考え方です。例えば、アウトレットセンターは美しい安さですが、バーゲンセールは美しくない安さです。ユニクロや無印良品は美しい安さですが、バッタ屋や品質に見合わない価格の店は安かろう悪かろうの商法であり醜い安さです。このように、安さを武器とする商法には「美しい安さの商法」と「美しくない安さの商法」と「醜い安さの商法」があります。

2.顧客が心理的に感じる価格

 価格には売り手が表示する「絶対的価格」(商品単位の数値的価格)と買い手が判断する「イメージ的価格」(商品単位に、これが普通、これは高い、これは安いとイメージする価格)があります。顧客は商品を買う時、品質(素材や製造技術・ライフリノベーションの実用機能だけでなくデザイン・トレンド・デザインのファッション機能までも含めた広義の品質)と価格(絶対的価格とイメージ価格)のバランスを考え、自らの所得、地位、金銭感覚に基づき高い安いを判断します。この価格と品質のバランスを価値と言い、〔品質/価格〕の算式で表現できます。商品を購入するときに、比較的客観性のある価値を基準にしながら、顧客は心理的に感じる適正な価格意識の中で意思決定します。

 顧客が心理的に感じる価格は次の通りです。

以上の価格を「不適正価格」と「適正価格」に分類し、さらに適正価格を「安くないが適正価格」と「安いので適正価格」に再分類すると次の通りです。

上記の価格で「不適正価格」は、価格が高すぎる事と価格は安いが品質が悪すぎる事でありビジネスとしては論外です。また、「安いので適正価格」は、リーズナブル性(割安感)とディスカウント性とアウトレット・バーゲン性です。顧客は安さに対して誰も文句はありません。

 問題は「安くないが適正価格」の分類です。この分野の価格の高さと品質の良さが微妙にバランスを取って適正価格となっています。不適正価格には「だましのノウハウ(?)」がないと買ってくれません。安いので適正価格は継続性を持たせるために「ローコストのノウハウ」が必要になります。安くはないが適正価格は「こだわりのノウハウ」が必要です。

 すなわち、安くはないが適正価格を確立するための「こだわり」は次の通りです。

 @高いことが満足と高くても良いと感じてもらうためには、権威としてのブランド確立へのこだわりが必要です。

 A高いが手の届く範囲内の高価格でも良いと感じてもらうためには、お得感(プレミアム)のある高さへのこだわりが必要です。

 B品質は良いけど価格はちょっと高めでも良いと感じてもらうためには、絶対的に自信のある品質へのこだわりが必要です。

 C高くても他にないのでこの価格で良いと感じてもらうためには、異質性の備わった品質へのこだわりが必要です。

 D安くはないけど高くもないので良いと感じてもらうためには、品質と価格のバランスへのこだわりが必要です。

 このように、安くはないが適正価格の分野には、単に価格と品質のバランスだけではなく、「こだわり」が必要となり、そのこだわりが顧客の「信頼性」を創出し適正価格と感じてもらえるようになります。

 また、この適正価格を見抜く能力はまさに安さの美醜を見分ける「安さの審美性」です。

 顧客は日本のGMSは「品質が今一歩なのに安くない」、百貨店は「品質は良いが品質に見合う価格ではない」と感じています。ユニクロやニトリに対しては「正味安い」、無印良品は「安くなくても他にないのでこの価格で良い」と感じています。しまむらやポイントに対しては「割安」、アウトレットは「激安」(?)と感じています。

3.今、アメリカのワンランク上の業態は苦戦

 アメリカの流通業の1993年からの発展の3割は、IT及び金融・不動産のバブル消費によるものと推定されます。経済の成長期はワンランク上の消費が基軸となり、経済の後退期はワンランク下の消費が基軸となります。ワンランク上の消費の心理的に感じる価格は「品質はいいけど、価格はちょっと高め」であり、ワンランク下の消費の心理的に感じる価格は「割安と感じる価格(リーズナブル価格)」です。

 この中で、アメリカのバブル経済崩壊後は、ワンランク下の消費である「割安と感じる価格」(リーズナブル価格)の企業は現状維持あるいは成長しているのに対し、ワンランク上の消費である「品質はいいけど価格はちょっと高めと感じる価格」の企業はマイナス20〜30%(前年比)と苦戦しています。

 事例で示すと、次の通りです。

@ホールフーズマーケット
 オーガニックをコンセプトに、グルメをマーケティングとして大発展してきたホールフーズは、前年比25〜30%のマイナスで苦戦しています。ホールフーズのプライス戦略は、「オーガニック食品3割、グルメ食品7割」を基軸に、品質はいいけど価格はちょっと高めというワンランク上の心理的価格でした。経済の発展期には大成長しましたが、やはり価格の高い分(2〜3割高)が過剰売上高でした。

Aスターバックスコーヒー
 本格的コーヒーをコンセプトに、サードプレイス(第3の居心地感のある場)をマーケティングとして大発展してきたスターバックスコーヒーは、大幅な店舗閉鎖を行い苦戦しています。スターバックスコーヒーのプライス戦略は、ファストフードのコーヒーやインスタントコーヒーと異なり本格志向のコーヒーを提供する、品質はいいけど価格はちょっと高めのワンランク上の心理的価格でした。経済の発展期には大成長しましたが、やはり価格の高い分(2〜3割高)が過剰売上でした。

Bアバクロンビー&フィッチ
 キャンパスファッションをコンセプトに、カジュアル&ヤングマインドをマーケティングとして大発展してきたアバクロンビー&フィッチも、前年比25〜30%マイナスで苦戦しています。アバクロンビー&フィッチのプライス戦略は、独自の"敵の参入障壁の高い"ファッションを武器に、品質はいいけど価格はちょっと高めのワンランク上の心理的価格でした。経済の発展期には大成長しましたが、やはり価格の高い分(2〜3割高)が過剰売上でした。

Cノードストローム
 ミセス&キャリアをコンセプトに幅広い客層をマーケティングとして大発展してきたノードストロームは、前年比10〜20%のマイナスで苦戦しています。ノードストロームのプライス戦略は、品質はいいけど価格はちょっと高めのワンランク上の心理的価格でした。経済の発展期には大成長しましたが、やはり価格の高い分(1〜2割高)が過剰売上でした。

4.安さにも美学が必要

 安さにも「おしゃれさ」が必要です。安さを創出するには次の3つのタイプがあります。

 @何かを犠牲にして安さを創出するタイプ(アメリカ型の安さ)

 A何も犠牲にせず安さを創出するタイプ(日本型の安さ)

 B安さをおしゃれに創出するタイプ(審美性のある安さ)

 美しい安さ(おしゃれな安さ)を創出する要因を抽出すると次の通りです。

@親美性の適用
 親美性とは、いいなぁと顧客に想わせる親しみのある美的感覚で、おしゃれさも親美性の1つです。新築や新品の美しさだけでなく、デザイン(造形、色彩、光)を駆使した創造改築や創造品の美しさは親美性が必要です。すなわち、安さと親美性が融合した売場が美しい安さの商法には必要です。 (親美性は「審美性」をベースにした造語であり誤植ではありません)

A高いとは感じさせない心理的価格の適用
 安いだけでは美しい安さにはなりません。美しい安さを創出するためには基本的には「割安感」が基本ですが、「高くても(安くなくても)他にないのでこの価格で良い」と「品質は良いけれど、価格はちょっと高め」を付加した商品ミックスが必要です。割安感の商品ミックスが豊富に選択肢がある状態で品揃えされていれば、顧客はやや高い商品があっても基軸価格(60〜70%)にプラスα(30〜40%)されていると感じますので、高い商品があっても高い商品とは感じません。

B時間による行動動機の異質差による心理的価格の適用
 時間帯(四季、月間、週間、1日の時間帯)別に顧客の行動目的と行動する範囲、行動する時間が異なり、市場価格が同じでも「自分の価値基準価格」が変わります。すなわち、時間による行動動機により顧客の心理的価格に変化があります。例えば、日祝日のエンターテインメント目的のSCへの出向と日常生活商品の購入への目的とは財布のひもの固さが異なります。このような時間による行動動機の異質差を価格戦略に導入することにより美しい安さを創出できます。

Cローコスト"こだわり"による付加価値の適用
 こだわりを追求すると高価格商法になりますが、創意工夫による"こだわり"は比較的ローコストでできる場合が多くあります。このローコストの"こだわり"を隠し味として導入すると低価格でかつこだわりのある他にはない商品ができ、若干高くても安いと認識してもらえます。

Dサービスの付加価値の適用
 店舗からの顧客への特典、店舗レベルサービスや人的サービスの高さは、商品の価格を麻痺させ、価格への抵抗感が少なくなります。すなわち、顧客満足や顧客感動は顧客の意識を価格ではない方向に向け、顧客の高い満足度は若干高くても安いと認識してくれます。

E顧客の信頼に基づくプチブランドの創出の適用
 顧客は良い悪いだけでなく、好き嫌いや、信頼するしないといった価値観で商品を選びます。ラグジュアリー商品は権威や伝統としてのブランド力を武器にしています。価格が高くはないと顧客に判断してもらうためには、プチブランド(信頼性を構築するためのこだわり)戦略が必要です。


 
Copyright (C)2009 Dynamic Marketing Co.,Ltd. All rights reserved.